Special 山に抱かれ、藍と共に生きる暮らし

丹羽花菜子(藍染風布)さん 染織・布

藍に魅せられて、15年あまり。筑波山のふもとで、藍畑と藍甕のある暮らしを営む丹羽さんのご自宅兼工房を訪ねました。

土地との出会い

筑波山に抱かれているようなすてきな場所ですね。

5年前、結婚を機に夫の故郷でもある筑波で暮らすことにしましたが、当初はいい土地との出会いがなく、つくば市の市街地に住み、藍畑には車で40分かけて通っていました。2年ほど前に、ようやくこの筑波山のふもとの土地と出会い、自宅兼工房を建てることになり、2020年の4月に引っ越してきました。この地で畑や古い藍甕との出会いにも恵まれ、今の暮らしがはじまりました。

ご自宅外観。左側の田んぼの隣が藍畑

お庭で日にあたる藍染めの品たち

100年前に作られたという古い藍甕を縁あって譲り受け、新しい工房に埋め込みました

藍染めとの出会い

学生時代から藍染めの工房でアルバイトをされていたそうですが…

大学では工芸工業デザイン学科でテキスタイルを専攻し、テキスタイルアートをつくる課題が多かったのですが、私自身は日本の伝統工芸や民芸に興味があり、日本の伝統的な染めである藍染めをやってみたくて大学4年のときに青梅の藍染め工房に体験に行きました。そのとき、ちょうどスタッフ募集のポスターが貼り出され「やってみたい!」と決断。週に2回アルバイトに通い始めました。そして、卒業後もその工房で職人として働き、9年間、染めることはもちろん、商品の企画や営業も、すべてやらせてもらいました。藍染めを通じて、こういうこともやってみたい、ああいうこともやってみたい、ということが尽きることなくあふれてくるので、今に至る、という感じです。

これまでの積み重ねが美しい見本帳に表れているよう

藍のある暮らし

暮らしの中に藍染めの作品がたくさん取り入れられていますね。

基本的に「自分が使いたい」と思えるものをつくってきていて、日本の伝統的技法を使って、今の暮らしに取り入れられるものを作りたいという思いはずっと変わらなくて、この気持ちが続く限り、染め続け、藍のある暮らしをたのしみたいと思っています。藍染めだけでなく、藍の種を焙じた藍の種茶もおいしくて、薬効もあり、お勧めしています。これからは内側に取り入れる藍についても発信していきたいなと思っています。

ご自宅のリビング。エプロンや手ぬぐい、ふきんなど、藍染め作品がたくさん

藍の種茶を淹れてくださいました

“アオのもと“を地域で生み出す

地域のみなさんと藍を育てる活動もされていますね。

藍染めの原料となるスクモの生産者が減り、自分が染めるのに必要なスクモが手に入らないかもしれないと危機感を持ったこともあり、藍を育て、スクモづくりも始めました。スクモづくりにはたくさんの葉が必要になるので、仲間とともに藍を育て、この地で筑波ブルーが生み出せたらいいなと思っています。また、土に触れ、農のある暮らしを営み、アオのもとを知っているということで、自然との向き合い方も変わってきた気がします。自分の暮らし自体も自然に優しい生き方に落とし込めるようになり、自分の活動も自然と仲良くできるやり方を追求していきたいと思うようになりました。

完成したスクモ。乾燥葉16キロで作られ、おおよそ一甕分の仕込みに必要な量になります

これからも藍とともに

今日は藍の魅力をたくさん教わった気がします

そうですね、藍は魅力にあふれていて、どんどん好きになってしまいます。藍が見せてくれる循環―――土に種を蒔き、葉が茂り、葉が発酵し、アオを生み出し、命を全うした藍がたい肥としてまた畑に返って、次の藍を育んでくれるという循環は、これからを生きる私たちのヒントになる気がしていて。自然界の営みはありがたい循環で成り立っているということを気づかせてくれるのが藍だとも感じています。ここで筑波ブルーを広めながら、これからも藍のある暮らしをたくさんの人とたのしんでいきたいです。

実際にてぬぐいを染めるところを見せてくださいました。藍甕に静かに浸したあと、空気に触れて色が現れます。スクモを天然灰汁建てで仕込み、発酵させ、毎日調子を整えて、このアオが生み出されています。

にわのわグループ展にむけてひとこと

おうち時間を楽しく過ごしていただけるような藍染の作品を制作しました。
筑波山麓の田んぼの風景からインスピレーションを受けて作った、パッチワークのライナーやコースター。手しごと好きの方に、藍の刺し子キット。刺し子糸はダーニングやかぎ針小物など、日々のハンドメイドにもぜひ。自然の恵みから生まれる藍色で、梅雨時にもさわやかな風を感じていただけますように。

(聞き手・文:濱口さえこ 取材日:2020年12月14日)

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