Special 靴づくりを通じて人とつながる

小高善和さん(小高善和靴工房) 皮革

大きな空に抱かれる生まれ育った土地

千葉県長生郡白子町。海まで車で5分ほどの田んぼや畑の間の道を進むと、瓦屋根の懐かしい佇まいの民家が見えました。季節を伝える植物たちがあふれる広い庭の一角、かつて納屋があった場所に小高さんの工房はあります。生家をリノベーションし、ものづくりと、家族の時間や両親の農作業の手伝いを大切に暮らしています。都内に憧れ、もっと人通りの多いところに工房を構えたいと考えていた時期もあったそうですが、車で10分ほどの近所でものづくりをしている友人のやり方を見て、「ここでもできる」と思い、この地で工房を構えました。今はここで、革靴の制作と、靴づくり教室を営んでいます。「仕事を終え、子どもたちと近くを散歩したり、自転車で走ったりして、夕陽をながめると、ほかに何もいらないなって思います」という小高さんのことばの通り、広い空が印象的でした。

内装は自分たちの手で完成させた工房

ご縁で受け継ぐ道具たち

道具、たくさんありますね。

そうですね。これは、最初に買ったミシンです。まだ、靴を習いに行っていた頃、工房を開こうとは決めていなくて、ただ、一足作れるようになろう、と思っていたくらいの頃、ふと入った浅草の材料屋で「ミシン探していて」と話したら、紹介してくれたミシンです。当時はよくわかっていなかったけれど、中古でずいぶん安くゆずってもらえました。これが手に入ったから、靴づくりへの道から引けなくなったといってもいいほどで。手入れをして使い続けています。

実際にこのミシンで縫うところも見せてくれました。まるで手と足とミシンが一体になったようで、針の音も心地よく響きます。ミシンや道具を紹介してくれるときの小高さんは、相棒を紹介しているようで、とてもうれしそう。一つ一つの道具にたくさんのご縁がつまっています。

靴づくりへの道を導いてくれたミシン

圧着機。靴づくり教室の同期が独立し北海道へ行くとき、ゆずってもらったもの。2台で1セットの機械を1台ずつ使うことにした思い出の一台。

左:革を掴む道具、ワニ。日本製のワニは、作り手がいなくなってしまったとか。大切に使い続けています。右:木ヤスリ。木型や先芯などの修正に欠かせない道具

つくりたいものに合わせて素材を変える

ずいぶんたくさんの革がありますね。

そうですね。デザインは、プレーンでシンプルな長く履き続けられるものが基本で、あまり変化がないのですが、素材は、面白そうだなと思うとつい仕入れてしまいます。昔はごつい革で丈夫に作った靴がいいと思っていたけれど、今はお客さんの要望に合わせて、軽くて柔らかい素材を履きやすいと感じる方には、その好みに合わせた靴を作るようになってきました。基本の形は変えず、素材を工夫し、頭を柔らかくして取り組んでいます。
ハード系のパンが一番、と思って作っていたけれど、それを食べにくいと感じる世代に合わせて、柔らかいパンも作るようになったパン屋さんみたいな感じかな。

たくさんの種類の革が天井まで積み上げられています

使い込んだ靴の美しさ

小高さんが素材に感じている魅力はどんな点ですか?

これは、ほぼ同じタンニン鞣しの革です。

左がこれから仕上げる新品の靴で、右が5年ほど履いてもらった靴。ちょうど修理で帰ってきていて。こんなふうに長く使えて、育っていくことが魅力かな。こんなふうに変化がたのしめるタンニン鞣しが好きです。あとは可塑性。革は、はじめは平面で、あれこれ手を加えると、それが形を帯びて足を包み、体をしっかり支えるものになってくれるという特徴を持っていて、そこが面白い点であり、同時に難しい点でもあるなと思っています。

使い込まれた飴色、足なりに刻まれたしわを見て、つかい手に届けられた後も、唯一無二のものに育っていくことを実感しました。修理用のミシンも活躍し、長く履き続けられることを前提にしたものづくりをされています。

カラダに合ったサイズとデザインの靴

実際にオーダーした際の靴づくりの流れを教えていただけますか?

まず、足のデータをしっかり計測し、生活スタイルや洋服の好みなどを聞くことからはじまります。デザインはプレーンなものやベーシックなものが中心ですが、革の種類や色の組み合わせ、靴底や裏地などのアレンジで、その人の暮らしに寄り添うものを提案します。デザインや素材が決まったら、その人に合わせて木型を調整し、型紙をつくり、仮縫いの段階でフィッティングしてもらい、確認してから、本番の作成に入ります。完成後は実際に履いてもらってチェックし、お渡しとなります。お渡しの際にはメンテナンスのお話もしています。

革靴を選んだときに、足に合わなくて痛い思いをしたことが靴づくりのきっかけだったと語る小高さん。履く人の足に合わせることが、靴づくりの基本にあります。天井まである棚にたくさん並んでいる木型の中には、よく見ると部分的に革が張り付けられ、補正されているものがたくさんあります。「この方は外反母趾で…」、「この方はブーツも注文してくれたので…」、など、木型から、それぞれのお客さんの足や、靴の話が広がります。

補正された木型が並ぶ棚

「カフェ」という名の靴づくり教室

靴づくりの教室に「カフェ」と名付けたのはなぜでしょう?

カフェ、とつけておけばなんでもできるよ、って友人に言われて…。「小高善和靴工房」だと、漢字ばかり並んでかたいので、どんな人でも入ってきてやすいイメージにしたくて「カフェ」として、「くつつくり」もひらがなで名付けました。

小高さんのブログのことばもすてきです。
「正直、カフェではありません。 将来的にはやりたいと考えていますが。 コーヒーを飲んでほっとするのと同じような、 履いたらほっとする靴を、 自分の家と同じような安心を 感じられる靴をつくっていきたい」
靴を通じて、人とつながり続けていく開かれた場が小高さんの「くつつくりカフェ」という名に表れているのなと感じます。3か月ほど通って自分の靴を作る、という体験は、たくさんの人の一生の思い出になっているそうです。

グループ展にむけてひとこと

最高に気持ちの良い青空の下でまた集まれることを願って
今年は今年で用意された舞台を存分に愉しみたいと考えています。
色々コンパクトになる分、一人一人とお話をする時間や
アイテムを見たり履いたりしていただける時間がゆっくりとれたら
良いなと考えています。
その時にできる100点を目指して準備します。
どうぞよろしくお願いいたします。

(聞き手・文:濱口さえこ 取材日:2021年3月22日)

住所:〒299-4214 千葉県長生郡白子町驚156
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