Special 暮らしの器とアートワークと。
「ガラスをきれいにみせる」に挑戦し続け、今がある

今村知佐さん ガラス

吹きガラスで器やアクセサリーを制作する一方、ガラス工芸を使った空間装飾も手がける今村さんのご自宅件アトリエにお邪魔しました。

ガラスと出会って20年あまり

掌に乗るものから、広い空間を埋めるものまで、さまざまな視点でガラスを見つめている今村さんにとって、ガラスの魅力はどんなところですか?

透明で、きれいなものに小さい頃から憧れがあって、なんで惹かれてしまうんでしょうね。でも、進学した武蔵野美術大学には当時ガラスのコースがなくて、専攻したのは金工でした。ガラスに興味はあったけれど、まずは様々な素材について学びたくて選んだ道なので、就職先のガラス工場で初めてガラスに触れました。同期の中で、自分は器用じゃなくてうまくできなくて、もうちょっとちゃんとできるようになりたくて、ずっと続けてきた…というところがあります。うまくできないくやしさと、だからこそきれいなものができた時の達成感がガラスという素材の魅力かな。あとは、素材の動くスピードが自分に合っているかな。金属は動くのが遅いと感じて、もう少しスピード感があって動きを伝えやすい素材がいいなと思っていて。吹きガラスは思い通りの形にするために熱いうちにタイミングよく動かす必要があり、まるで「速球を芯に当てて打ち返し、さらにひねってジャンプ!」みたいなところがあり、スポーツに似た感覚があり、面白いです。

吹きガラスの作業風景。窯の中は1200度。工房内の気温は夏場には40度以上に上がるといいます

ガラスに豊かな表情を加える力強い技術

今村さんの作品には、瑞々しい透明のガラス、光を内包し優しい印象の曇りガラス、食べ物や花を引き立てる白色ガラスなど豊かな表情があります。

吹いて形をつくって完成、ではなく、さまざまな加工で表情が生まれるのですね。
はい、吹いて形を作った後、削ったり、削ってからさらに焼き戻したりもします。削るといっても、さまざまな手法があって、グラインダー、ルーター、サンドブラスターなどの機械を使ってつくっています。例えば、水玉を表現する方法はいくつもあるのですが、自分の頭の中にあるデザインを表現するのはどの工程が一番いいかを考えて、仕上げ方法を選びます。以前は作業ごとに数か所に分かれていた仕上げの作業場が2年前の引越しを機に集約できて、かなり楽になりました。

引っ越しのきっかけとなったサンドブラスター。この大型の機械を友人が手放すと聞き、捨てるには忍びなくてこれを設置できるアトリエを探し、住居兼アトリエにできるこの物件に出会い、自宅ごと引っ越すことを決意したそう

サンドブラスターを使った作品。ガラスの内部に閉じ込めた写真をなぞるように表面を削ってあります。光を包み込む優しい表情が魅力

ご自宅アトリエで作業しているところ。グラインダーで雨粒のような模様がリズミカルに刻まれていきます

金属を学んだ経験を生かし、ガラスに真鍮のパーツを合わせた作品

ガラスの魅力を引き出し、唯一無二の空間をつくる

ホテルのロビーやマンションのエントランス、レストランなど、ガラスを使った空間装飾も今村さんの活動の柱になっています。

ガラスを使ったアートワーク作品はどんなふうに生まれるのですか?

依頼を受けるのは、施工前、設計段階がほとんどなので、まず、図面で現場を確認し、依頼内容をふまえてイメージをかためます。イメージにあわせて異素材の作家さんにパーツ制作を依頼することもあれば、ガラス部分のパーツ制作を依頼することもあります。パーツをつなぎ合わせる作業が膨大な場合はチームでの進め方を考えます。パーツを吊るすタイプの作品の場合は特に大勢で分業して作業するため、模型と設計図が必須になります。

例えば、2017年。隈研吾さんが設計した北京にあるホテルの空間装飾を担当した際、決めたテーマは建物の中の空間に浮くガラスの霧。8mの吹抜けロビーに今村さんが思い描く構想を形にするため、10数名の仲間に仕事を割り振り、進めていきました。使用した設計図は43枚。6~8mmのガラスの粒6万個以上をワイヤーでつなぎ、北京に搬入。2千本以上のワイヤーを天井から吊るして設置、というプロジェクトでした。大がかりで、輸送や設置も考慮しながらのアートワークは、手に持って使う器などをつくるときとは心持ちが全く違い、離れて見た時に作品全体で美しく見えるかどうかという点が重要だと考えているそうです。ひとりではできないことも、相応しい人に頼み、クオリティーをあげることに努めてきたと言います。

北京のハイアットリージェンシーホテルの吹き抜け空間に設置したガラスの霧

このような小さなガラスのパーツをつなぎ合わせています

アートワーク作品

アートワーク作品

素材の魅力を伝え続けるために

ガラスのアートワークと器づくりとは相互に作用したりしますか?

制作にあたる心持ちは全く違うけれど、素材がきれいに見えるというゴールは一緒です。ガラス自体がきれいに見えるように生かしてあげることが最終目的。器なら、これに盛り付けたらおいしそうに見える、たのしい、使うのがうれしい、という気持ちになるもの。アートワークなら、その空間がきれいだなとハッとするようなもの。ガラスを通じてそんなわくわくする気持ちを味わってほしいと思う心持ちは共通で、そういうものを選びとり、作り続けることのできる自分でありたいと思っています。

アプローチでは鉢植えの花が出迎えてくれ、室内も庭も、さまざまな植物たちであふれている今村さんのお宅。庭にテーブルを広げ、風に吹かれながら今村さんの話をうかがって、何気なく目にしている草木やそよ風、陽の光、雨粒などの一瞬のハッとするような美しい瞬間が作品の中に閉じ込められていることを感じました。

グループ展にむけてひとこと

にわのわ気分で来てください。
多くの作家の作品が一度に見られるので、自分がお客さんとして行く場合も楽しい気分で行きたいなと思っています。
グラス、花器などが並ぶ予定です。

(聞き手・文:濱口さえこ 取材日:2021年3月25日)

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