Special 古きよきものを学び、地元に根差し、謙虚に手を動かし続ける

志村和晃さん 陶磁器

なつかしさと瑞々しさの同居した染付の器づくりをされている志村和晃さん。南房総市の工房兼ご自宅にお邪魔しました。

家族と寄り添いながら伸びやかな暮らし

田んぼが広がって、緑が多くて、いいところですね。

自宅と工房が別々の場所だったので、自宅兼工房にできる物件を探して、ここに出会いました。2年前に越してきて、娘はちょうど同じタイミングで近くに開校した小学校の1期生です。同じくらいのお子さんがいることもあって、ご近所様にも恵まれ、とても暮らしやすいところです。ここに越してきてからもずっと館山の工房に通っていたのですが、ようやく今年の3月初めに窯の引越しを済ませ、工房を移しました。

取材中にお茶を運んできれくれたご家族の皆さん。なんとも愛しい光景でした

工房の入り口をスレスレで搬入できた大きな窯。「窯の引越しは大変だったー」とのこと

窓から見える景色も心地よい新しい工房

京都と金沢と益子を経てから館山へ

志村さんはいろいろな場所で修行されていますね。

そうですね。工芸の専門学校を卒業後、ふらふらアルバイト生活をしていたのですが、25歳のときに「やりたいことをちゃんとやらなきゃ」と思う転機があり、専門学校で陶芸の時間が一番たのしかったことを思い出して、まず京都の陶芸学校へ行きました。そこは職人を養成する学校だったので、職人としての技術を身につければそのあと何か仕事になるかなと。2年間のコースを終え、石川県の九谷焼の正木春蔵さんの工房に行きました。正木さんは京都の学校とは違い、手でつくるものだから全部ぴったり同じでなくてもいいという姿勢で、「筆で描いているのだから、最初に濃くてだんだんとかすれていくことは自然で、それがいい」という考えでした。その考え方が自分にとっては今に生きていると思います。1年間、正木さんのところを手伝った後、独立する前にもう一か所、産地に行きたいと思い、陶芸仲間のつながりもあった益子へ行きました。若林健吾さんの工房に2年半から3年ほどいたかな。徐々に陶器市に出展できるようになり、益子で窯を借りて独立しました。その2年後に生まれ故郷の館山市へ戻り、工房も移転しました。

実際にロクロで蕎麦猪口をひくところを見せてくださいました

石川時代の蹴りロクロもこの工房で再び活躍することになるそうです

当初から絵付けをされていたのですか?

最初は描いていなくて、白いものや鎬などが中心で。描き始めたきっかけは、ある展示のときに、いろいろなお声をいただく中でアイデンティティの話になって「君は九谷焼の工房にもいたんだから、描いてみたら」と言われたことかな。

東西問わず、古きよきものから学び、生かす

形や絵はどんなところから思いつくのですか?

基本的に古いものから探します。本はよく見ます。美術館や博物館も好きです。オランダのデルフトの柄や明の染付け、古伊万里や柿右衛門の形など。いいなあと思うものは古くからあって、それを参考にして、大きさを変えたり、別の形に当てはめたりして再構築しています。

本棚には「陶磁大系」をはじめ、陶芸関連の本が並んでいます

デルフト柄の器

鎬に描くのなかなかむずかしい作業。「アンティークのマグカップにかっこいい形があったので、それを参考にして」

スタンダードなマグに中国の古い花器に描かれていたものをあわせて

手にしてくれた人が喜んでもらえるものづくり

この醤油入れ、落花生ですね!

落花生をモチーフにした醤油入れ。底に「志村軒」の文字

醤油さしをテーマにした展示のときにつくりました。「落花生でつくろう」と思いついたものの、どうやってつくったらいいかわからなくて、さんざん試行錯誤して仕上げました。楽しんでくれたらいいなと思って。いつも、手にしてくれた方がよろこんでくれることをだいじにしているかな。何度も買いに来て下さるお客さんもいるので、毎回同じものだけでなく、新しいものをつくっておこうと考えたりします。「作って生活していく」が根本にあるので、お客さんと自分の好きな方向とを合わせ、これからもお客さんに選んでもらえるものを作っていきたいです。

地域に根差し、つながりひろがる活動へ

この新しい工房には「awan kiln」と名付けたそうですね。どんな思いを込めたのですか?

「awan」は、南房総の昔の呼び方、安房(あわ)と碗、oneなどの意味を合わせて、「kiln」は窯という意味です。生まれ育った自然豊かな安房の地から、一つでも多く気に入っていただける器を届けていきたいと思い名付けました。
また、コロナ禍で毎年出展していた益子の陶器市が中止になってしまい、それなら地元で「一人陶器市」をやろうと思いついて動いていたら、賛同してくれる仲間がいて「a wan market」と名付けた市を開くことになりました。こんなやり方もあったんだ、と思って、地域に根差した活動としてたのしみが増えました。

「a wan market」のひとこま

グループ展に向けてひとこと

千葉なので、やはり落花生の醤油入れは作ろうと思います。また、酒蔵が会場なので、酒器なども用意できたらいいなと思っています。

(聞き手・文:濱口さえこ 取材日:2021年4月4日)

E-mail:kz.shimura0079@gmail.com
instagram:https://www.instagram.com/kazuakishimura/

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