Special 猫のようにひょうひょうと、心おどる柄を生み出し、仕立てる
金子千晶さん(アトリエか猫) 染織・布
なべ、輪ゴム、カトラリー、アイロン…。日常のひとこまをのびのびと切り取った柄をシルクスクリーンでハンドプリントし、バックなどに仕立てる金子さんのご自宅兼工房にお邪魔しました。
暮らしの中で“ぐっときた”時にだけ生まれる柄
たくさんの柄が並んでいて、わくわくしてしまいます。どんなふうにしてこのデザインは生まれるのですか?
「柄づくりの目で日常を見ることができるスイッチ」が入る時があって、アイデアが浮かんだときにスケッチを描きためています。ふだんからいつも「生活の中で見逃してしまいそうなものをいかにデザインに昇華するか」を考えているかな。ものづくりをはじめたきっかけが、暮らしとものづくりとがなるべくフラットでありたいという思いだったので、さまざまな視点で暮らしを見つめ、自分がおもしろいと思った瞬間をキャッチし、自分自身がおもしろがれることからぶれないでいたいなと思っています。だから、自分の心が動いて、“ぐっときた”時にだけ、柄は生まれます。その方が、自分らしいものがつくっていけると思っています。人が求めるものではなく、自分が求めるものをつくりたいという思いがまずありますが、求められたことで自分の中で気づきがあって、ぐっとくることもあって、それがぴたっとはまったときは、それがきっかけで新しい柄が生まれることもあります。
最初につくった柄は「アトリエか猫」のロゴ
たくさんの柄を作られていますが、最初につくった柄は何でしたか?
この「アトリエか猫」のロゴなんです。これをエプロンに刷ったのが最初です。
「か猫」をはじめた当時は猫と暮らしていたわけではなく、猫のようにひょうひょうとものづくりをしたいと思って「か猫」と付けました。13年目の今、4匹の猫と暮らしています。「か猫」をはじめる前は18年間グラフィックデザインの仕事をしていました。グラフィックデザインの世界もだんだんとデジタル化が進み、スキルもソフトも日々新しいものが求められ、そのスピード感や消費されていく感じに疑問を感じるようになった時期があって。便利になっているはずなのに、余裕がなくなっていって…。そんな時に「自分のものをつくろうかな」くらいの気持ちでミシンを買ってつくりはじめたら、寝る間を惜しんでつくりたくなってしまって、手を動かしてものをつくる、というやりたいことのイメージができてしまったんですよね。それでバッグなどを作り始めました。
好きなものを好きなように形にする
アナログへの方向転換で「アトリエか猫」は生まれたのですね。
はい。祖母が縫いものが得意だったり、叔母が縫製の仕事をしていたり、父親が手作業中心でデザインをしていたりしたこともあって、自然と手を動かす方向へ戻っていったように思います。販売を始める前から自分のイメージをかためるため、発信する場としてブログを書き始めました。ブランドヒストリーを記録する意味もあり、セルフプロデュースの意味もありました。
今でも金子さんのホームページで、スタートしたときからのブログを読むことができます。自分の内側から生まれ出るものをだいじにしたいという気持ちで始まった「か猫」のストーリーや、試行錯誤の積み重ね、ずっとぶれないものづくりへの姿勢が伝わってきます。
しなやかで自由な布をキャンバスにして
金子さんにとって布という素材の魅力はどんなところですか?
最近、しみじみ布を選んでよかったなと思うことがあって。軽やかで、扱いも楽で、広げると大きくなるし、自由自在なんですよね、布って。特別じゃなく、みんなが取り入れられるもの。もともと服や身に着けるものが好きだったし、生活の中で自分が持ちたいなと思えるものをつくりたいと考えていて、布に落とし込むというのは自分の中では自然な流れだったと思います。でも、布という素材はキャンバスと思っていて、あくまでも肝は柄。布は発色のよさや、形にしたときの耐久性などをいろいろ試して選んでいます。
自分自身が持ちたいものを
丸かったり、細長かったり、バッグの形も「か猫」らしさがあふれていますね。
形を考えるときにも、一番だいじにしていることは柄が生きることで、あとは自分が使う場面や使い勝手などを吟味します。形を決めるときには、使いやすさと見た目のかわいさのどちらをとるかのせめぎ合いがあるのですが、柄やかわいらしさ優先になることが多いです。基本は、自分が持ちたいもの、になります。
お話をうかがって、「か猫」さんのバッグを手にした時の「なんだか元気をもらえる」という感覚は、金子さんご自身が自分の心にまっすぐに、自分がいいなと思うことからぶれないでいる前向きな気持ちの表れなのだと思いました。
グループ展に向けてひとこと
こんなご時世なので、自分が作っていて楽しくなるものを作ろうと思います。見ていただく方にもそんな楽しさが伝わるといいなと思います。また、おうち時間を意識しながらつくりたいなと思います。千葉なので「ピーナッツ」と初心に返って久しぶりに「すずなり」も刷ろうかなと思います。
(聞き手・文:濱口さえこ 取材日:2021年3月30日)
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