Special うつろいゆくことをおそれず、その時々感じたことに向き合う

成瀬治さん 金属

木と金属をつかい造形活動、空間づくりをしている成瀬治さんの工房を訪ねました。木更津市の里山。緑豊かな場所でした。

木工から金属加工へ

ものづくりをはじめたきっかけをおしえてください。

中学から自由学園に入り、そのときの木工所での時間が楽しくて(自由学園ではまず自分の机と椅子を自分で制作するそうです)、その延長で卒業後は高山の専門学校へ行きました。そこは家具づくりについて一から教えてくれる学校で、2年間木工を学びました。その後は縛られない形で何か仕事をしながらものづくりを続けられたらいいなと思っていて、そんな時に、鉄工という道もあるよと教えてもらいました。木工は、刃物も使いますし、治具を作ったりすることもありますし、鉄と絡む部分がたくさんあり、鉄工に興味を持っていたので都内の鉄工所で働きはじめました。そこは工芸的なものというよりは、工業的なものをつくる小さな町工場のようなところで、そこで作業員として3年ほど働きました。

素材それぞれの性質に向き合う

木と鉄とでは、素材としてはずいぶん違いますよね…

はい、木と鉄は全く違っていて、それが良かったなと思っています。そもそも木は自然の素材そのものに手を加えていきますが、鉄は精製されたもの材料として手を加えていくところが違い、おもしろいなと思いました。また、木は一発勝負のところがあったり、ほぞを作るなど時間のかかる工程があったり、作業のスピード感が鉄とは違います。温度感も違っていて、鉄は触るまではガスを使ったりするので怖いなと思っていましたし、そのいろいろな違いを体験できたことがよかったなと思っています。

木と鉄を合わせた作品

ご縁がつながり自分のものづくりの道へ

その後、益子へ移住したそうですね。

自由学園の先輩に益子出身の方がいたり、益子で農家をしている後輩がいたりして、遊びに行ったときにいいところだなと思って、それまで仕事漬けの暮らしだったので、空気のきれいなところで「ちょっと考えたいな、整えたいな」と思い、移り住むことにしました。そのとき物件を紹介してくれたのが、見目陶苑の見目さんでした。すぐに「陶器市に出さない?」とお誘いいただいて。「まだ準備ができていないし、陶器市も来たことがないので、一度見てみたいです」とお断りしたんですが「そんなこと言っていたらすぐ場所は埋まっちゃうよ」と言われて。その時はまだ道具も最低限のものしかなくて、暮らしを整えたいなという思いが強くて。それまでも仲間から頼まれたものを場所を借りてつくったりはしていたのですが、依頼されてつくるものと自分の作品とは違うので、自分の中ではずいぶん抵抗があり、手が慣れてきてからやりたいという思いがあったのですが、背中を押していただいてスタートを切った形になります。30歳のときでした。

ものづくりをする仲間やお客さまとの出会いから

実際に陶器市に出てみた感想は?

ほんとうに苦手で、できないな、と思いました。でも、お店の前に立つのが苦手で奥の方に隠れるようにしていても、自分のつくったものを見てくれたり、声をかけてくれたりする人がいて、買ってくれるお客さんがいることが励みになりました。だんだんと、陶器市のたびに半年に一度会って親しくさせてもらう人の輪も広がって、回を重ねるごとに、楽しみな時間になってきました。例えば今回のにわのわも、陶器市でタクさん(にわのわ実行委員の片岡さん)に出会って教えてもらったことがきっかけだったわけですし、いろんな方に出会って次につながっていく状態がずっと続いている感じです。

革の作家さんとコラボレーションしたという椅子。座り心地がとてもよかったです

今のものづくりへの道のり

当初から、今のような作品を作られていたのですか?

初めは大きな設備もなかったので、木工だったら手加工でできるかなと思って木工を始めました。益子に引っ越して2年目くらいに実家の近くへ戻らなければならないことになり、そのタイミングで川崎の鉄工所が空いているからやってみないと言われ、仕事も決まっていなかったので、その鉄工所を借りてものづくりをすることにしました。そこでも初めは最低限の道具しかなく、一つ仕事をしたら新たに道具を買い足すという繰り返しでした。今もあまり変わっていないのですが。
でも、川崎は空気がきれいなところではなかったので、空気のきれいなところ、土のあるところに自分の工房を持ちたいという思いはあって、いい場所をずっと探していました。その川崎の工場は3階建てで、2階部分を借りていたのですが、1階を使っていた人が出ることになり、1階も借りてくれないかという話が舞い込み、それは無理だなと思い、真剣に場所を探そうと思いました。
正直に言うと、千葉にしようと決めて探していたわけではないんです。実家から1時間くらいの範囲で、大きな音を出しても迷惑にならないような場所を広く探しました。木更津は、千葉の海に行くときにアクアラインを通るといつも気持ちがよくて、ちょっと気になっていた場所だったこともあり、ここを見つけ、実際に見に来て、この工房部分は大工さんの下小屋で、電気も何もなくてがらんとしていたのですが、ここならできるな、と思って決めました。木更津へ来て4年になります。

階段の左側が木工の作業場、右側が鉄工の作業場で、2階部分が居住スペース

鉄工の工房内のようす。電気工事以外すべてお一人で整えたそう

木工の作業場の窓には緑があふれます

工房も住まいも手づくりで

鉄工の作業場の横に木工の作業場があり、作業場の2階部分が居住スペースとなっているのですね。

鉄工は火花も散るため、木工とは作業場を完全に別にしています。上の居住スペースは最低限住めるだけにはしました。母屋もあったのですが、引っ越してきた最初の年に、大きな台風があり、本当にすごかったんです。周りのお宅も壊れてしまったところが多くて、片付けを手伝いに行ったりして、自分の母屋の状態も危ないなと思ったので、壊すことにしました。壊し始めたら寝るところがなくなって、仕方ないから車で生活していたんですけど、夏になって暑くて危ないなと思って、あわてて工房の上に寝泊まりできるスペースをつくりました。母屋の建て直しも、使える部分は使いながら進めたいのですが、なかなか時間が取れなくて。今年中には何とか一回終わらせたい!と思っています。最初に勤めた鉄工所で、鉄骨の建築にも一通り携わらせてもらったので、あとは勉強しながら建てています。

建て替え作業がなかなか進まない母屋

頼まれた仕事から育まれる可能性

なかなか母屋建て替えの時間がとれないのは、依頼されたお仕事が多いからのようですが、どんなものを依頼されるのですか?

お店の内装や階段や家具や、ほんとうにいろいろです。依頼を受けた時は、「じゃあ、手伝うから一緒にやろう」と言うことも多いです。一緒にやると見えてくるものがあって、その人の考えていることや、その場から受けるものとか。そこをお掃除するような感覚ですね。ただ仕上がった形を投げるのではなくて、整えていく過程や、経緯を大事にしたいと考えていて、一緒に手を動かすとそれがわかってもらえると思っています。そうやって頼んでくれた仕事から学ぶことも多く、それが次へつながっている、と思うことばかりです。

「生きる」こと、つくること

(にわのわブログより)
その時々感じることに直接的に手を動かせたらと思い製作しています。
もの、人、空間などのもっているそのものの性質がすきです。
それを無理しないで、そのまま出せたらと思い製作しています。

このにわのわブログに寄せていただいた成瀬さんのことばが大好きです。当初からこのような思いで手を動かしていらしたのですか?

ありがとうございます。そうでもなくて、自分自身変わりながらつくってきています。自分は何かをつくりたい!という思考回路でもなくて、そのとき必要なことをしよう、ただそれだけ、ということということの延長で、とりあえず、一生懸命「生きる」方法をやってみるというか。
例えば、鉄はさびますし、それはまたすごくいいなと自分は思っていて、木が割れるというのもまたすごくおもしろいなと思いますし、反ったらかわいいお皿になっちゃうかもしれませんし、いいとか悪いとかでなくて、ちゃんと見たいなと思うようになってきて。自分はいいものを作れるかわからないんですけど、一生懸命そのものに向き合いたいなと思っています。素材や空間のおもしろいところを自分がちゃんと見ているかということに意識を向けています。
みなさんとお会いしていても、自分はいろんな影響を受けるんですけど、それもすごくいいなと思っていて。面白いと思ったらなんでも面白くなっちゃうというか、変に整えてあげるのでなく、そのままでいいのかなと思っています。

にわのわに並ぶ予定の作品を手にして説明してくださった成瀬さん。ステンレスのさじ。アルミの皿。工業的な素材があたたかみあるものに

変わること変わらぬこと

これからどんなふうになっていきたいですか?

常に変わっていたいなとは思っています。時間が経つと心持ちが変わったり、季節で変わったり、それはすごくふつうだなと思えるようになって、そんなふうに縛られなくていいんだなと思えるようになったらすごいラクになりました。つくるものは変わらなくても、自分の内側は常に変わっていたいと思っています。そうして、その時々に感じたことにちゃんと向き合い、たくさん作品をつくっていたいなと思っています。

にわのわグループ展にむけてひとことお願いします

いろいろなものが並び、みなさんが集まるエネルギーはすごくいいなと思っていて、自分も楽しみにしているところです。

サンドブラストで表面に表情をつけたアルミの皿

(聞き手・文:濱口さえこ 取材日:2021年7月22日)

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