Special これからも続けていくために、今、面白いものをつくる

高木浩二さん 陶磁器

陶芸家・高木浩二さんの千葉市花見川区の工房にお邪魔しました。

見るだけの世界から、自らでつくる世界へ

うっそうと茂る緑の奥に、陶芸家・高木浩二さんの工房はありました。「覚悟してきてくださいね」そんな前置きに、ドキドキしながら足を踏み込んだ工房は、所狭しと作品や資料が積み重なった一軒家。ここだけぽっかりと時間が止まっているような、そんな錯覚さえ覚える空間です。
東京の下町に生まれ、高校時代に千葉市に引っ越してからは、ずっと千葉暮らし。将来は学芸員になろうと大学は美学科で東洋美術を学びます。陶芸家になろうというきっかけは何だったのでしょうか。「いや、本当にひょんなことで(笑)。大学の時、京都を一人で旅行をしてある陶芸家と知り合って。これは、見ているよりつくるほうが面白いぞ!と思ったんです」弟子入りは断られましたが居候なら許すとの承諾を得て、卒業後は京都へ。はじめて陶芸の基礎を学びます。京都では陶器、磁器、絵つけも学び、千葉に戻ってからもしばらくは、京風な色絵の作品をつくっていたそうです。

うっそうと茂る緑のトンネルの先にある工房

うっそうと茂る緑のトンネルの先にある工房

はじまりは足を運ぶことから

陶芸を生業としていく。そう決めて千葉に戻り、現在の工房で作陶をはじめたと話す高木さん。実際に、どのように人に知ってもらい、販売していくことに繋げていったのでしょうか。「僕には“つて”もなくて、とにかく、つくったものを雑誌に載っているお店に持ち込んでという感じでしたね。ほとんどはダメだったけれど、何軒かは応援してくれて。今は、インスタなんかがありますけど、その頃は、実際に見てもらうしかなかったんですよ」確かにここ数年で、情報発信は手軽になってきました。高木さんはご自身でもインスタグラムをアップしており、そこからコンタクトをとってくる人も増えたと話されます。「面白いものですね。思わぬつながりができたり、注文がきたり」時代が変わってきたといえばそうかもしれません。ただ、それは入口であり、その先につながるのは人。会って話して新しい発想に繋がることも。「僕の器は、何というか料理人に好まれるんですよ(笑)。この前の京都の展示でも、パティシエのかたから、このブルーだけのお皿があったらいいのに!って言われて、ああ、そういうのもいいなーと思ったり」人気の白のシリーズの他に、最近は黒のシリーズも加わりました。さまざまな会話の中から、ニーズのあるものを把握していく。それもプロとして長年培ってきた感覚なのかもしれません。

黒のシリーズは、盛りつけた時に料理が映えるよう見込み部分に銀彩を施す

黒のシリーズは、盛りつけた時に料理が映えるよう見込み部分に銀彩を施す

教えるとつくるは別のもの

「実は今週、陶芸教室の講師を辞めました」25年間勤めた出張教室の講師をやめ、これからはつくる専門に専念すると話す高木さん。人に教えるということが、自分の制作にプラスになることはありますか。「それはないかな。僕は、この仕事は、誰かと一緒にする仕事ではないと思っているんですよ。だからアシスタントもいないし、自分は自分のペースでつくっているし。これからもそうかな。ただ、一人で誰とも話さずに作業するからこそ、教室で生徒さんたちと話したりするのは楽しかったですけどね」
高木さんのつくる器は、ろくろで形成したものと型でつくるものをベースに、化粧土を使い仕上げています。白、黒、赤の化粧土を、まさにお化粧をするようにスポンジでポンポンと叩き、色づけしていきます。この色のバランスは、ひとつひとつ高木さんの感性で仕上げていくもの。だからこそ余人に任すことのできない仕事なのかもしれません。

使っている化粧土はスポンジで叩くようにつけていく

使っている化粧土はスポンジで叩くようにつけていく

化粧土を複雑に重ねていくことで何ともいえない肌合いができあがる

つくり続けるために、今、楽しいことを

「2年前くらいにね、いろんな高級ホテルから、すごくたくさんの発注をもらったんですよ。単位がね、これを1000枚お願いします、みたいなね。もちろん経済的にはすごく助かることなんだけれど、面白くないんですよ。ずっと同じものをつくっているのって」その反動で、これからしばらくは個展をびっしり詰め込んだと高木さんは笑います。最近は、お花屋さんからの注文も多く、植木鉢や花器もつくっているとのこと。「これがね、つくってみると面白いんですよ。ちょっとつくっている途中で割れてしまったんだけれど、そのまま焼いてみたら、すごく面白いものになった」今、つくって楽しいものを。これからは、そんな新しいものがつくりたいと話される高木さん。まだまだ新たなチャレンジは続いていくようですね。

途中で割れてしまったものも遊びの感覚で焼いてみることで新しい発見が

今まではあまりつくったことのなかった花器にも挑戦中

今まではあまりつくったことのなかった花器にも挑戦中

にわのわについて、千葉について

「にわのわ、すごく好きですよ、何も変えなくていいんじゃないですか。このままで(笑)」何だか言わせたみたいになってしまっていますが、大丈夫でしょうか。「千葉も若い人たちが変わってきた気がします。お店も増えたし、売れるものも変わってきた。今までは東京でしか売れないと思ったものも、千葉で売れるようになってきたと思います」
今回のにわのわcirclesでは、高木さんの器や新しい花器、植木鉢も並ぶ予定です。どうぞお楽しみに。

使いやすい器や面白いテクスチャーの花器が並ぶ予定

(聞き手・文:サカモトトモコ 取材日:2021年9月24日)

住所:〒262-0004 千葉県千葉市花見川区大日町1277
E-mail:kuuta707@yahoo.co.jp
instagram:https://www.instagram.com/koji_takagi17

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