Special 遊ぶ、楽しむ。「つくる」の先にあること。

『硝子屋PRATO PINO』松野栄治さん・マツノミカさん ガラス

『硝子屋PRATO PINO』松野栄治さん・マツノミカさんの山武市の工房にお邪魔しました。

海の近くの小さなガラス工房

千葉県九十九里浜、本須賀海岸からほど近い場所に『硝子屋PRATO PINO』の工房はあります。稲刈りの終わった田んぼの上を、雲の影が滑るように流れていく広がりのある風景は、とても九十九里らしく、工房を訪れた日も海風が強く吹いていました。
岐阜県出身の栄治さんと東京の下町が実家であるミカさん。この場所に工房を持つことになったきっかけは「消去法」と言って笑います。実はこの場所、ミカさんのお祖父さまお祖母さまが持っていた土地だったそうで、平家の家と庭があったのだそう。その庭の部分に工房を建て、自分たちでガラスの炉をつくり、家をリフォームしながら住みはじめたのは、2004年のこと。それから15年以上の時が流れ、ここでの暮らしは、すっかり肌に馴染んだものになっています。例えば、栄治さんは、朝、趣味のサーフィンをしてから仕事にかかることも。また、愛犬との散歩も海辺を歩いたり、自転車で一緒に走ったりと、海は生活のすぐそばにあります。では、この海の近くの小さなガラス工房ができるまでのお話を。

工房前でのインタビュー風景

一人ではなく二人ならできること

幼い頃からものづくりが好きだったと話す栄治さんが、ガラスに興味を持ったのは高校生の頃。高校卒業後はデザインの学校へ進み、ガラスサークルに入部。「暗いところにぼんやりと赤くガラスが光っているのが本当にきれいで」と話す栄治さん。ガラス職人になりたい!という思いから、千葉のガラス工場の存在を知り、絶対ここに入ろう!と熱い思いでぶつかっていき、無事就職。そこで基本となる作業をはじめることに。「そこでミカと出会ったんですよ」と笑います。
では、ミカさんはどうしてガラスをはじめたのでしょうか。「道のりは長いんです。笑」中学生の時、まず建築設計やインテリアに興味を持ったとミカさんは話します。大学で環境心理学を勉強し、建築の仕事がしたいと思いながら、そこには理系ではないという壁が。ようやく決めた会社では「カーペンターをやってみないかと言われて。」カーペンター=大工さん。なんともガテン系なお話に、おもしろさはあるがやりたいことはこれではないと、あらためて昼間は働きながら夜間の専門学校に通い、インテリアデザインを勉強。学校の求人広告を見て、これだと思い入社したのが千葉のガラス工場だったというわけです。
二人が入社したのは多くの職人さんが働く吹きガラス工場。ただ、やはりそこは会社として商品をつくっていく場所です。自分自身が自由に作品をつくりたいという考えを次第に持つようになるのは、とめられないことなのかもしれません。一人ではなく、二人ならできることもある。独立し、二人で炉を持ち作品をつくっていく。そう決めてから、どこではじめるかという場所探しがはじまります。もともとこの場所も候補地のひとつ。「いくつかまわったりしたんですよ。でも、いろいろな条件を考えると結局ここに。」落ち着くべきところに落ち着いた、ということなのでしょうか。

ガラスの炉との対峙は緊張感を持って

熱いガラスのかたちを整えて

ものづくりのベースにあるもの

ガラス作家にとって、炉を持つというのは本当に大変なこと。火を止めることはメンテナンスの時だけで、あとはずっと火とガラスとつきあっている毎日です。自由に好きなものがつくれる、ということはありますが、その中にはもちろん、制作コストのこと、販路のこと、一から十まで自分たちが責任を持っていくということです。
『硝子屋PRATO PINO』の作品の特徴のひとつには、多くのラインナップがあるということがあります。栄治さんが考えつくるもの、ミカさんのアイディアを栄治さんが形にするもの、ミカさんがつくるものとさまざまなシリーズが生まれています。美しくクリアなガラスであるというベーシックな共通点はありますが、デザインはさまざま。「そこが屋号があるってことだと思うんですよ」職人になりたい、名前が大きく先に出ていくよりも楽しんでもらえるものを数多くつくりたい。そんな言葉の中に栄治さんの人に楽しんでもらおうという姿勢の一部を垣間見る気がします。また、ミカさんは「うちの器は、使ってもらって完成するものだと思うんですよ」とも。シンプルであるからこそ、料理を盛りつけてもらって、花を活けてもらって完成する。凛とたたずむ器たちには、それを受け入れ、さらに美しく見せたいという思いがこもっているのですね。

水の塊のようなみずのうつわ

ブルーがかった色味が美しいランプシェード

遊びを大切に、それが先につながる

最近の栄治さんの作品には「焚き火シリーズ」というものがあります。炎のゆらめきをグラスを通して眺める、そんな楽しみ方を提案するシリーズです。これは自分自身が楽しめる遊びの中から生まれたもの。そして、最近よく口にするのが「なになにをして遊んでいます」という言葉。ミカさんの「今まで駆け抜けてきた」という言葉も印象的でしたが、全速力で走ってきた二人が少しだけギアを落とし、自分たちの作品たちとゆっくり向かい合う、そんな時期になってきたのかもしれません。きっとその時間は、豊かな気持ちを育み、新たな作品づくりにつながっていくのだろうと思いました。

ゆらめきが美しい焚き火シリーズ

ゆらめきが美しい焚き火シリーズ

(聞き手・文:サカモトトモコ 取材日:2021年9月25日)

住所:〒289-1304 千葉県山武市井之内2698-2
電話番号:0475-84-3951
E-mail:info@pratopino.com
instagram:https://www.instagram.com/prato_pino/
facebook:https://www.facebook.com/glass.PratoPino

by